超高齢社会に突入した日本において、医療の役割は劇的な変化を遂げています。若年層のように「一つの病気を完治させて終わり」という医療モデルは、多くの慢性疾患を抱えながら生きる高齢者には必ずしも当てはまりません。このような状況下で、かかりつけ医とは、複数の持病を統合的にコントロールし、最期まで自分らしく生きることを支える、いわば「人生の伴走者」としての重要性を増しています。多くの高齢者は、血圧は内科、膝は整形外科、目は眼科といった具合に、複数のクリニックを受診しています。しかし、それぞれの医師がバラバラに処方を行うと、薬の飲み合わせが悪くなったり、副作用でふらつきが出て転倒したりといったリスクが高まります。かかりつけ医とは、これらの情報を一手に引き受け、本当に必要な薬を整理し、全身の状態をコーディネートする役割を果たします。いわゆるポリファーマシー問題の解決は、一人の有能なかかりつけ医なしには成し得ません。また、加齢に伴い避けられない認知機能の低下についても、かかりつけ医とは心強い味方になります。患者の普段の様子を知っているからこそ、些細な物忘れが単なる老化なのか、それとも認知症の初期兆候なのかを早い段階で見極めることができます。早期発見は、その後の生活の質を大きく左右します。さらに、地域に根ざしたかかりつけ医とは、医療と介護を繋ぐブリッジとなります。ケアマネジャーや訪問看護師と連携し、自宅で安全に暮らし続けるための環境作りを医師の立場からリードしてくれます。日本が目指す「地域包括ケアシステム」において、かかりつけ医はその中心的な歯車として機能しなければなりません。そして何より重要なのが、人生の最終段階における意思決定、すなわちアドバンス・ケア・プランニングへの関与です。どのような医療を受けたいか、あるいは受けたくないか、どこで死を迎えたいかという極めて個人的で重い決断を、長年付き添ってきたかかりつけ医とは共に考え、支えてくれる存在です。言葉にできない本人の思いを汲み取り、家族や他の医療スタッフに伝えてくれる医師がいれば、本人は最期まで尊厳を保つことができます。かかりつけ医とは、命の長さを追求するだけでなく、命の深さや質を追求するパートナーなのです。独居高齢者が増える中で、定期的に通い、自分の名前を呼んでくれる医師がいることは、社会的な孤立を防ぐ精神的な安全網にもなります。地域社会全体でこのようなかかりつけ医を支え、活用していくことが、これからの日本における最大の福祉と言えるかもしれません。かかりつけ医とは、医療という枠組みを超えて、人と人、命と命を繋ぐ絆そのものなのです。
高齢化社会でかかりつけ医とは命を繋ぐ絆になる