食中毒は、レストランや給食施設だけで起こるものではありません。毎日食事を作る家庭のキッチンにも、そのリスクは潜んでいます。しかし、正しい知識を身につけ、いくつかのポイントを習慣化するだけで、家庭での食中毒のリスクは大幅に減らすことができます。その基本となるのが、食中毒予防の「三原則」です。それは「つけない」「増やさない」「やっつける」という、シンプルで覚えやすい三つの言葉に集約されています。第一の原則は「つけない」です。これは、食材や手指、調理器具に食中毒の原因となる菌やウイルスを付着させない、という意味です。最も重要なのは、調理前、生肉や魚、卵を触った後、そして食事の前の徹底した手洗いです。石鹸を使って指の間や手首まで丁寧に洗いましょう。また、まな板や包丁は、生肉・魚用と、野菜や調理済みの食品用とで使い分けるのが理想です。使い分けが難しい場合は、使用の都度、熱湯をかけるなどして消毒することが大切です。生の食材と調理済みの食品が触れ合わないように、保存場所にも気を配りましょう。第二の原則は「増やさない」です。多くの食中毒菌は、10度から60度の温度帯で活発に増殖します。そのため、購入した肉や魚などの生鮮食品は、できるだけ早く冷蔵庫や冷凍庫に入れ、菌が増殖する時間を与えないことが重要です。冷蔵庫内でも菌はゆっくりと増殖するため、過信は禁物です。調理した料理も、室温で長時間放置せず、粗熱が取れたら速やかに冷蔵庫で保存しましょう。目安として、2時間以内に食べ切るか、冷蔵庫に入れるのが安全です。第三の原則は「やっつける」です。これは、加熱によって菌を死滅させることを意味します。ほとんどの食中毒菌やウイルスは、十分な加熱に弱いという性質があります。特に、肉料理は中心部の色が完全に変わるまで、しっかりと加熱することが肝心です。目安として、中心部を75度で1分間以上加熱することが推奨されています。電子レンジで温める際も、加熱ムラができないように、途中で一度かき混ぜるなどの工夫をしましょう。この三原則を日々の調理の中で意識することが、あなたとあなたの大切な家族を食中毒から守る最も確実な方法なのです。