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症状から考える、適切な診療科の選び方
体に不調を感じて病院へ行こうと思った時、多くの人が最初に直面するのが「一体、何科を受診すればいいのだろう?」という、 fundamental な問題です。大きな総合病院に行くと、受付の前には「内科」「外科」「整形外科」「皮膚科」など、数多くの診療科の看板が並んでおり、途方に暮れてしまうことも少なくありません。適切な診療科を選ぶことは、迅速で的確な診断と治療への、最も重要な第一歩です。間違った科を受診してしまうと、再度別の科で待ち直したり、いわゆる「科のたらい回し」に遭ってしまったりして、貴重な時間と労力を無駄にするだけでなく、診断が遅れる原因にもなりかねません。診療科を選ぶ際の、最も基本的な考え方は、「自分の最もつらい症状は何か」そして「その症状は、体のどの部分に現れているか」を、明確にすることです。例えば、咳や喉の痛み、発熱といった症状であれば、全身を診る「内科」が基本となります。膝や腰が痛む、あるいは怪我をした、というのであれば、骨や関節の専門家である「整形外科」が適しています。皮膚に発疹やかゆみがあれば「皮膚科」、目の異常であれば「眼科」、耳や鼻の症状であれば「耳鼻咽喉科」といったように、症状が現れている部位がはっきりしている場合は、比較的選びやすいでしょう。しかし、めまいや腹痛、頭痛のように、原因が複数の臓器にまたがる可能性がある症状の場合は、判断が難しくなります。この記事シリーズでは、そのような迷いやすい症状を取り上げ、それぞれの特徴から、どの診療科を受診するのが最も適切かを、分かりやすくガイドしていきます。
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咳と胸痛・息苦しさ、循環器内科や救急科も視野に
咳という症状は、ほとんどの場合、呼吸器系の病気が原因ですが、ごく稀に、心臓や血管といった「循環器」の重大な病気のサインとして、現れることがあります。特に、咳に加えて、「胸の痛み」や「息苦しさ(呼吸困難)」といった症状を伴う場合は、緊急性の高い状態である可能性も考え、迅速な対応が必要です。このような場合に、専門的な診断と治療を行うのが「循環器内科」であり、一刻を争う場合は「救急科(救急外来)」の受診が不可欠となります。まず、考えられるのが「心不全」です。心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を、十分に送り出せなくなった状態です。心臓から血液を送り出す力が弱まると、血液が渋滞(うっ血)を起こし、その影響が肺にまで及ぶと、肺に水が溜まってしまいます(肺水腫)。この、肺に溜まった水が、気道を刺激し、咳や、ピンク色の泡のような痰(泡沫状血痰)を引き起こすのです。心不全の咳は、特に、夜間、横になると悪化するのが特徴で、息苦しさのあまり、座らないと呼吸ができない「起座呼吸」という状態になることもあります。足のむくみや、急激な体重増加を伴うことも、重要なサインです。次に、より緊急性が高いのが、「急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)」です。これは、足の静脈にできた血の塊(血栓)が、血流に乗って肺の動脈に詰まってしまう病気で、突然の激しい胸の痛みと、呼吸困難、そして咳(時に血痰)で発症します。失神したり、血圧が急激に低下したりすることもあり、命に関わる、極めて危険な状態です。これらの心臓や血管の病気が疑われる場合、循環器内科では、胸部X線撮影や、心電図、心エコー(心臓超音波)検査、そして血液検査(心不全マーカーであるBNPなど)を行い、診断を確定させます。治療は、利尿薬や、心臓を保護する薬、あるいは血栓を溶かす薬など、専門的な薬物療法が必要となります。咳が、単なる呼吸器症状ではない、何かおかしいと感じたら、これらの危険な病気の可能性も、頭の片隅に置いておくことが大切です。
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りんご病とは?大人の頬が赤くなる原因
りんご病は、正式には「伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)」と呼ばれる、ウイルス性の感染症です。その名の通り、両頬が、まるでりんごのように真っ赤になる特徴的な症状から、この愛称で親しまれています。原因となるのは、「ヒトパルボウイルスB19」というウイルスで、主に、咳やくしゃみなどに含まれるしぶきを吸い込む「飛沫感染」によって広がります。一般的に、りんご病は、4歳から10歳くらいの子どもたちによく見られる、比較的軽症な病気として知られています。しかし、免疫を持っていない大人が感染すると、子どもとは異なる、そして、しばしば、より重い症状に悩まされることがあるため、注意が必要です。大人がりんご病に感染した場合も、子どもと同様に、特徴的な「頬の赤い発疹」が現れることがあります。しかし、子どもほど典型的ではなく、赤みがそれほど強くなかったり、頬だけでなく、顔全体が腫れぼったくなったりすることもあります。そして、大人のりんご病で、最も特徴的で、かつ、つらい症状となるのが、発疹と共に出現する、激しい「関節痛」や「関節炎」です。手首や、手指の関節、膝、足首などが、朝、こわばって動かしにくくなったり、赤く腫れて、ズキズキと痛んだりします。この関節症状は、関節リウマチと見間違えられるほど、強いこともあり、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。また、発熱や、頭痛、筋肉痛、強い倦怠感といった、インフルエンザのような全身症状が、発疹に先立って現れることも、大人のりんご病の特徴です。りんご病が疑われる場合、受診すべき診療科は、症状に応じて異なります。発疹が主であれば「皮膚科」、関節痛が強ければ「リウマチ・膠原病内科」、あるいは、まずは全身を診てほしい場合は「一般内科」が、適切な相談窓口となります。
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「いつからいつまでうつる?」手足口病の感染期間の真実
手足口病と診断された時、保護者が最も気になることの一つが、「この病気は、いつからいつまで他の人にうつる可能性があるのか?」という感染期間の問題でしょう。この期間を正しく理解することは、家庭内での二次感染や、集団生活での感染拡大を防ぐために極めて重要です。まず、ウイルスが体内に侵入してから症状が出るまでの「潜伏期間」は、およそ3日から5日間です。この潜伏期間中にも、既にウイルスは体内で増殖を始めており、症状が出る直前から、他の人にうつす可能性があります。そして、発熱や発疹、喉の痛みといった症状が現れる「急性期」が、最も感染力が強い時期となります。この時期は、咳やくしゃみによる飛沫、水疱の内容液、そして唾液など、あらゆる体液にウイルスが大量に含まれているため、厳重な注意が必要です。では、熱が下がり、発疹が消えて元気になったら、もううつらないのでしょうか。答えは「いいえ」です。ここに手足口病の感染対策の難しさがあります。症状が改善した後も、ウイルスは体外へ排出され続けるのです。排出される経路と期間には違いがあります。喉や気道からのウイルスの排出は、症状が治まってから約1~2週間続くとされています。つまり、咳やくしゃみによる飛沫感染のリスクは、しばらく残るということです。そして、さらに長期間にわたってウイルスが排出されるのが「便」からです。便中のウイルスは、回復後も2~4週間、長い場合には1ヶ月以上にわたって排出され続けることがあります。この事実が非常に重要です。見た目はすっかり元気になっていても、おむつ交換やトイレの後には、感染源となるウイルスがまだ存在しているのです。この長期にわたるウイルス排出期間があるため、学校保健安全法では、インフルエンザのように「解熱後◯日間」といった明確な出席停止期間は定められていません。登園・登校の目安は、あくまで本人の全身状態によります。しかし、家庭内や集団生活の場では、症状が治まった後も、少なくとも1ヶ月程度は、徹底した手洗いや排泄物の適切な処理といった感染対策を継続することが、見えないウイルスから周りの人々を守るために不可欠なのです。
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りんご病と間違いやすい、頬が赤くなる他の病気
子どもの頬が赤くなっているのを見ると、多くの人が、まず「りんご病かな?」と考えるかもしれません。しかし、頬が赤くなる原因は、りんご病だけではありません。中には、適切な対応が必要な、他の病気が隠れている可能性もあるため、自己判断は禁物です。りんご病と間違いやすい、頬が赤くなる代表的な病気を、いくつか紹介します。まず、乳幼児に多いのが、単純な「乳児湿疹」や「乾燥による頬の荒れ」です。特に、冬場の乾燥した空気や、よだれ、食べこぼしなどの刺激で、頬の皮膚がカサカサになり、赤みを帯びることがあります。これは、保湿ケアが基本となります。次に、溶連菌感染症に伴う発疹である「猩紅熱(しょうこうねつ)」でも、顔に発疹が出ることがあります。猩紅熱の発疹は、頬が赤くなりますが、口の周りだけが白く抜ける「口囲蒼白」が見られるのが特徴です。また、舌がイチゴのように赤くブツブツになる「いちご舌」や、紙やすりのようにザラザラした、細かい発疹が、全身に広がります。溶連菌は、細菌感染なので、抗生物質による治療が必須です。アレルギー性の疾患も、頬の赤みの原因となります。「アトピー性皮膚炎」では、頬に、かゆみを伴う、ジクジクとした湿疹ができやすいです。また、特定の食物や、化粧品、塗り薬などが原因で起こる「接触皮膚炎(かぶれ)」も、頬に赤みやブツブツを引き起こします。全身性の自己免疫疾患である「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、鼻から両頬にかけて、蝶が羽を広げたような形に、特徴的な赤い発疹(蝶形紅斑)が現れることがあります。これは、発熱や関節痛といった、全身症状を伴う、内科的な病気です。そして、寒い地方の幼児に見られる「小児顔面紅色丘疹」や、リンゴ病とは関係ない「伝染性紅斑様皮疹」など、専門家でなければ鑑別の難しい病気もあります。これらの病気を見分けるためには、頬の赤みだけでなく、発熱の有無や、他の部位の発疹、全身症状などを、総合的に判断する必要があります。気になる場合は、まず、かかりつけの「小児科」や「皮膚科」を受診し、正しい診断を受けることが大切です。
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私が体験した地獄、大人のヘルパンギーナ闘病記
「子どもの夏風邪が、こんなにも恐ろしいものだとは、夢にも思っていませんでした」。あれは、当時4歳だった息子が、保育園でヘルパンギーナと診断された、数日後のことです。最初は、軽い倦怠感と、37度台の微熱でした。「息子の看病疲れが出たかな」と、市販の風邪薬を飲んで、早めにベッドに入りました。しかし、その夜半、私は、経験したことのないほどの悪寒で目を覚ましました。歯の根が合わないほどの震えが止まらず、体温計は、一気に39.8度を指し示していました。体中の関節が、まるで錆びついたようにギシギシと痛み、頭は割れるように痛い。しかし、本当の地獄は、喉にありました。鏡で口の中を覗くと、喉の奥に、びっしりと、白い口内炎ができていたのです。それは、ただの口内炎ではありませんでした。唾を飲み込むという、普段は無意識に行っている行為が、毎回、覚悟を決めなければできない、拷問のような苦行と化しました。ゴクリと音を立てるたびに、喉の奥で、無数のガラスの破片が突き刺さるかのような激痛が走り、思わずうめき声が漏れてしまいます。食事はもちろん、水分を摂ることさえ、ほとんどできませんでした。スポーツドリンクを一口含んだだけで、あまりのしみる痛みに、涙が出ました。二日間、ほとんど眠ることもできず、ただひたすら、天井を見つめて、痛みに耐えるだけの時間は、永遠に続くかのように感じられました。発症から3日目、脱水症状でふらふらになりながら、内科を受診し、点滴を受けました。冷たい液体が血管に入っていくのを感じながら、「これが、あのヘルパンギーナなのか」と、その恐ろしさを、身をもって知りました。幸い、点滴と、処方された強力な鎮痛剤のおかげで、その日の夜からは、少しずつ水分が摂れるようになり、回復の兆しが見え始めました。完全に体調が戻るまでには、10日以上かかりましたが、あの地獄のような喉の痛みは、今でも私の記憶に、鮮明に焼き付いています。
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耳鼻咽喉科が専門、喉の痛みのスペシャリスト
喉の痛みで医療機関を受診する際、最も専門的な診断と治療が期待できるのが「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科は、その名の通り、耳・鼻・喉(咽頭・喉頭)の病気を専門とするエキスパートであり、喉の痛みの原因となる、様々な疾患に対して、深い知識と、豊富な診療経験を持っています。耳鼻咽喉科を受診する最大のメリットは、その「診察の精度」にあります。内科の診察では、主にペンライトと舌圧子(ヘラ)を使って、口の中から見える範囲(中咽頭)を観察しますが、耳鼻咽喉科医は、これに加えて、ヘッドライトを装着し、より明るく、広い視野のもとで、喉の隅々まで、詳細に観察します。さらに、必要であれば、「ファイバースコープ」という、先端に高性能カメラがついた、細くしなやかな管を、鼻から挿入し、内科の診察では、決して見ることのできない、鼻の奥(上咽頭)や、喉の最も深い部分、声帯のある喉頭までを、リアルタイムで、モニターに映し出して評価することが可能です。これにより、炎症の範囲や程度を、正確に把握できるだけでなく、ポリープや、稀ですが、喉頭がんなどの、重大な病気の見逃しを防ぐことにも繋がります。また、耳鼻咽喉科では、内服薬の処方に加えて、喉の炎症を直接抑えるための「専門的な処置」を受けられるという、大きな利点もあります。例えば、多くのクリニックに設置されている「ネブライザー」という吸入器を使い、抗炎症薬や抗生物質を含んだ、霧状の薬剤を、口や鼻から吸入します。これにより、薬剤が、痛みの強い患部に直接届き、腫れや痛みを、効果的に和らげることが期待できます。また、医師によっては、扁桃腺に付着した膿を、専用の器具で吸引除去したり、炎症を抑える薬剤を、直接塗布したりする処置を行ってくれることもあります。これらの処置は、内服薬だけでは得られない、即効性のある症状緩和に繋がります。喉の痛みが、特につらいと感じる場合は、喉のスペシャリストである、耳鼻咽喉科医の力を借りるのが、最も確実な選択と言えるでしょう。
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外科の役割、手術が必要な病気や怪我
「外科」と聞くと、多くの人が「手術をする科」というイメージを持つでしょう。そのイメージは、まさにその通りです。外科は、主に手術的なアプローチ、すなわち、メスなどを用いて、患部を切開したり、切除したり、あるいは縫合したりすることで、病気や怪我を治療する診療科です。内科が、薬物療法を主軸とする「内からのアプローチ」であるのに対し、外科は、手術を主軸とする「外からのアプローチ」と言えるでしょう。では、どのような症状があれば、外科を受診すべきなのでしょうか。まず、最も分かりやすいのが、「怪我(外傷)」です。包丁で深く指を切ってしまった「切り傷」や、転んで皮膚が大きく擦りむけた「擦り傷」、あるいは、交通事故やスポーツで、お腹や胸を強く打った「打撲」など、縫合処置や、内部の損傷の評価が必要な場合は、外科が対応します。特に、腹部を強く打った後は、肝臓や脾臓といった内臓が損傷している(内臓損傷)可能性があり、緊急手術が必要となることもあるため、速やかな受診が不可欠です。次に、体の表面にできた「しこり」や「できもの」も、外科の領域です。皮膚の下にできた、柔らかい脂肪の塊(脂肪腫)や、硬いしこり(粉瘤など)で、切除を希望する場合は、外科での日帰り手術が可能です。また、腹部の症状では、「急性虫垂炎(盲腸)」が、外科で扱う代表的な緊急疾患です。みぞおちの痛みから始まり、徐々に右下腹部に痛みが移動し、吐き気や発熱を伴う場合は、虫垂炎を強く疑い、直ちに外科を受診する必要があります。放置すると、腹膜炎という命に関わる状態になる危険性があります。その他、腸が詰まってしまう「腸閉塞(イレウス)」や、お腹の壁の弱い部分から腸が飛び出す「ヘルニア(脱腸)」、そして、胃がんや大腸がんといった、「消化器がん」の診断と手術治療も、外科(特に消化器外科)の重要な役割です。内科と同様に、外科もまた、「消化器外科」「心臓血管外科」「呼吸器外科」「乳腺外科」といったように、専門分野が細分化されています。どの外科に行けばよいか迷う場合は、まずは「一般外科」を受診し、そこから適切な専門外科へ紹介してもらうのが良いでしょう。
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危険なめまいのサイン、脳神経外科へ行くべき時
めまいの中には、脳の異常が原因で起こる「中枢性めまい」と呼ばれるタイプがあり、これらは時に命に関わるため、迅速な対応が求められます。このような危険なめまいを見分けるためには、伴っている他の症状に注意することが極めて重要です。脳が原因のめまいを疑い、「脳神経外科」または「脳神経内科」を直ちに受診すべき危険なサインは以下の通りです。まず、「突然発症し、これまでに経験したことのないような強いめまいやふらつき」で、まっすぐに立っていられない、歩けないといった症状がある場合です。特に、回転する感じは少ないのに、体が雲の上を歩いているようにふわふわする、といった感覚が特徴です。そして、最も重要なのが「神経症状」を伴っているかどうかです。具体的には、「激しい頭痛(特に後頭部)」「ろれつが回らない、言葉が出てこない」「物が二重に見える(複視)」「視野が欠ける」「顔や手足の片側がしびれる、感覚が鈍い」「片方の手足に力が入らない、麻痺している」といった症状です。これらの神経症状は、脳の中の小脳や脳幹といった、体のバランスを保つ上で中心的な役割を担う部分に、異常が起きていることを強く示唆します。原因となる代表的な病気は、「脳梗塞」や「脳出血」といった脳卒中です。これらの病気は、治療の開始が遅れるほど、後遺症が重くなったり、命を落としたりする危険性が高まります。上記のような神経症状を伴うめまいが一つでも見られた場合は、絶対に様子を見たり、自分で運転して病院へ行ったりしてはいけません。ためらわずに救急車を呼び、CTやMRIといった高度な画像検査が可能な医療機関へ、一刻も早く搬送してもらうことが何よりも大切です。
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ものもらいを繰り返す根本的な原因とは
一度治ったはずの「ものもらい」が、しばらくするとまた同じような場所に、あるいは反対の目にできてしまう。このように、ものもらいを何度も繰り返してしまう場合、その背景には単なる不衛生だけでなく、より根本的な体質や生活習慣の問題が隠れている可能性があります。ものもらい、特に痛みを伴う「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」は、黄色ブドウ球菌などの常在菌が、まぶたの分泌腺や毛根に感染することで発症します。この菌は、普段から私たちの皮膚や髪に存在していますが、通常は体の防御機能によって、悪さをすることはありません。しかし、何らかの理由でこの防御機能が弱まると、菌が増殖しやすくなり、感染症であるものもらいを引き起こすのです。したがって、ものもらいを繰り返す根本的な原因は、「免疫力の低下」と「細菌が繁殖・侵入しやすい局所的な環境」という、二つの大きな要因に集約されます。免疫力の低下は、睡眠不足や過労、精神的なストレス、不規則な食生活などが引き金となります。また、糖尿病などの基礎疾患がある場合も、感染症に対する抵抗力が全体的に低下するため、ものもらいを繰り返しやすくなります。一方、局所的な環境要因としては、ドライアイやアレルギー性結膜炎による目のバリア機能の低下、不適切なコンタクトレンズの使用、あるいはアイメイクの習慣などが挙げられます。これらの要因が、一つ、あるいは複数絡み合うことで、「ものもらいになりやすい体質」が作られてしまうのです。再発の連鎖を断ち切るためには、目薬による対症療法だけでなく、これらの根本的な原因に目を向け、生活全体を見直していくという視点が、何よりも重要になります。