手足口病と診断された時、保護者が最も気になることの一つが、「この病気は、いつからいつまで他の人にうつる可能性があるのか?」という感染期間の問題でしょう。この期間を正しく理解することは、家庭内での二次感染や、集団生活での感染拡大を防ぐために極めて重要です。まず、ウイルスが体内に侵入してから症状が出るまでの「潜伏期間」は、およそ3日から5日間です。この潜伏期間中にも、既にウイルスは体内で増殖を始めており、症状が出る直前から、他の人にうつす可能性があります。そして、発熱や発疹、喉の痛みといった症状が現れる「急性期」が、最も感染力が強い時期となります。この時期は、咳やくしゃみによる飛沫、水疱の内容液、そして唾液など、あらゆる体液にウイルスが大量に含まれているため、厳重な注意が必要です。では、熱が下がり、発疹が消えて元気になったら、もううつらないのでしょうか。答えは「いいえ」です。ここに手足口病の感染対策の難しさがあります。症状が改善した後も、ウイルスは体外へ排出され続けるのです。排出される経路と期間には違いがあります。喉や気道からのウイルスの排出は、症状が治まってから約1~2週間続くとされています。つまり、咳やくしゃみによる飛沫感染のリスクは、しばらく残るということです。そして、さらに長期間にわたってウイルスが排出されるのが「便」からです。便中のウイルスは、回復後も2~4週間、長い場合には1ヶ月以上にわたって排出され続けることがあります。この事実が非常に重要です。見た目はすっかり元気になっていても、おむつ交換やトイレの後には、感染源となるウイルスがまだ存在しているのです。この長期にわたるウイルス排出期間があるため、学校保健安全法では、インフルエンザのように「解熱後◯日間」といった明確な出席停止期間は定められていません。登園・登校の目安は、あくまで本人の全身状態によります。しかし、家庭内や集団生活の場では、症状が治まった後も、少なくとも1ヶ月程度は、徹底した手洗いや排泄物の適切な処理といった感染対策を継続することが、見えないウイルスから周りの人々を守るために不可欠なのです。