咳という症状は、肺や気管支といった「下気道」の問題だけでなく、その手前にある、鼻や喉といった「上気道」のトラブルが、原因となっていることも少なくありません。特に、咳と共に、「しつこい鼻水や鼻づまり」「喉の痛みやイガイガ感」「痰が喉にへばりつく感じ」といった、鼻や喉の症状が、主体である場合は、「耳鼻咽喉科」の受診が、非常に有効な選択肢となります。耳鼻咽喉科は、その名の通り、耳・鼻・喉(咽頭・喉頭)の病気を専門とするエキスパートです。咳の原因となる、代表的な耳鼻科領域の疾患には、いくつかあります。まず、「副鼻腔炎(蓄膿症)」です。これは、鼻の奥にある、副鼻腔という空洞に、ウイルスや細菌の感染によって、膿がたまってしまう病気です。この、粘り気のある、色のついた鼻水が、喉の方へ流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」が、喉を刺激し、日中も、そして特に、横になった夜間に、湿った咳を引き起こす、大きな原因となります。次に、「アレルギー性鼻炎」です。スギ花粉やハウスダストなどが原因で、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状が起こりますが、これも後鼻漏を介して、咳を誘発します。また、喉そのものの炎症、例えば「咽頭炎・喉頭炎」も、咳の原因となります。喉の粘膜が炎症を起こし、過敏になることで、咳反射が起こりやすくなるのです。耳鼻咽喉科では、専門的な器具を用いて、鼻の中や、喉の奥の状態を、直接、詳細に観察することができます。内視鏡(ファイバースコープ)を使えば、副鼻腔の入り口の状態や、声帯の炎症の有無まで、はっきりと確認することが可能です。そして、原因に応じた、専門的な治療を行います。副鼻腔炎であれば、鼻の中の膿を吸引する処置や、抗生物質の入った霧を吸入する「ネブライザー治療」が、症状の改善に非常に効果的です。アレルギー性鼻炎に対しては、抗アレルギー薬の内服に加えて、鼻に直接噴霧する、ステロイド点鼻薬が、咳の原因となる後鼻漏を抑えるのに役立ちます。咳が長引く時、その原因は、意外と「鼻」や「喉」に隠れているかもしれません。