「子どもの夏風邪が、こんなにも恐ろしいものだとは、夢にも思っていませんでした」。あれは、当時4歳だった息子が、保育園でヘルパンギーナと診断された、数日後のことです。最初は、軽い倦怠感と、37度台の微熱でした。「息子の看病疲れが出たかな」と、市販の風邪薬を飲んで、早めにベッドに入りました。しかし、その夜半、私は、経験したことのないほどの悪寒で目を覚ましました。歯の根が合わないほどの震えが止まらず、体温計は、一気に39.8度を指し示していました。体中の関節が、まるで錆びついたようにギシギシと痛み、頭は割れるように痛い。しかし、本当の地獄は、喉にありました。鏡で口の中を覗くと、喉の奥に、びっしりと、白い口内炎ができていたのです。それは、ただの口内炎ではありませんでした。唾を飲み込むという、普段は無意識に行っている行為が、毎回、覚悟を決めなければできない、拷問のような苦行と化しました。ゴクリと音を立てるたびに、喉の奥で、無数のガラスの破片が突き刺さるかのような激痛が走り、思わずうめき声が漏れてしまいます。食事はもちろん、水分を摂ることさえ、ほとんどできませんでした。スポーツドリンクを一口含んだだけで、あまりのしみる痛みに、涙が出ました。二日間、ほとんど眠ることもできず、ただひたすら、天井を見つめて、痛みに耐えるだけの時間は、永遠に続くかのように感じられました。発症から3日目、脱水症状でふらふらになりながら、内科を受診し、点滴を受けました。冷たい液体が血管に入っていくのを感じながら、「これが、あのヘルパンギーナなのか」と、その恐ろしさを、身をもって知りました。幸い、点滴と、処方された強力な鎮痛剤のおかげで、その日の夜からは、少しずつ水分が摂れるようになり、回復の兆しが見え始めました。完全に体調が戻るまでには、10日以上かかりましたが、あの地獄のような喉の痛みは、今でも私の記憶に、鮮明に焼き付いています。
私が体験した地獄、大人のヘルパンギーナ闘病記