「トイレが近くなるのが嫌だから、水分はあまり摂らないようにしている」。特に、長時間の会議や移動を控えている時、あるいは夜中に何度も起きたくないという理由で、このように考えている人は少なくありません。しかし、この一見合理的に思える行動は、夏の季節においては、自ら熱中症のリスクを著しく高める、非常に危険な習慣と言わざるを得ません。私たちの体は、たとえじっとしていても、呼吸や皮膚から常に水分を失っています(不感蒸泄)。気温が高い夏場は、それに加えて発汗によって大量の水分と塩分が失われます。体が必要とする水分量は、私たちが感じている喉の渇きよりもはるかに多いのです。喉が渇いたと感じた時には、すでに体は水分不足の状態に陥っています。その状態で、トイレの回数を気にして水分摂取を我慢することは、脱水症状を意図的に進行させる行為に他なりません。脱水が進行すると、血液が濃縮されて粘度が高まり、血流が悪くなります。これにより、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもって熱中症が発症します。初期症状であるめまいや立ちくらみ、頭痛を通り越し、重症化すると、痙攣や意識障害、臓器不全といった命に関わる事態に至ることもあります。トイレに行く手間や不便さと、命に関わる熱中症のリスクを天秤にかければ、どちらを優先すべきかは明らかです。熱中症を予防するための水分補給の基本は、「喉が渇く前に、こまめに飲む」ことです。一度にがぶ飲みするのではなく、コップ一杯程度の量を、一時間おきなど時間を決めて少しずつ飲む「点滴飲み」が効果的です。こうすることで、体に負担をかけることなく、効率的に水分を吸収させることができ、急激な尿意も感じにくくなります。トイレの回数が一時的に増えることは、体が正常に機能している証拠です。そのわずらわしさよりも、自分の健康と命を守ることを最優先に考え、夏場の水分補給をためらわないでください。