食中毒というと、気温と湿度が高い夏に多発するイメージがありますが、実は冬にも警戒すべき強力な食中毒が存在します。その代表格が「ノロウイルス」による食中毒です。ノロウイルスは、低温で乾燥した環境でも長期間生存できるため、空気が乾燥する冬場に流行のピークを迎えます。その最大の特徴は、驚異的な感染力の強さです。ごく少量のウイルス粒子が体内に入るだけで感染が成立し、人から人へと容易に感染が拡大していきます。主な感染経路は、ウイルスに汚染された食品の摂取、特にカキなどの二枚貝の生食や加熱不十分な調理によるものがよく知られています。しかし、ノロウイルスが恐ろしいのは、それだけではありません。感染者の便や吐瀉物にも大量のウイルスが含まれており、それらが乾燥して空気中に舞い上がり、吸い込むことで感染する「塵埃感染(じんあいかんせん)」や、汚染されたドアノブや手すりなどに触れた手を介して口からウイルスが侵入する「接触感染」といった、二次感染のリスクが非常に高いのです。学校や保育園、高齢者施設などで集団発生が起こりやすいのは、このためです。症状は、感染から24時間から48時間の潜伏期間を経て、突然の激しい吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などを引き起こします。特に嘔吐の症状が強く出ることが多く、脱水症状に陥りやすいため、こまめな水分補給が欠かせません。治療は、ウイルスに直接効く薬はないため、症状を和らげる対症療法が中心となります。予防のためには、まず食品の十分な加熱が重要です。中心部が85度から90度で90秒間以上の加熱が推奨されています。また、調理前や食前の手洗いを徹底することも基本です。さらに、ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくいという厄介な性質があるため、石鹸を使った物理的な洗浄がより効果的です。もし家族が感染してしまった場合は、吐瀉物の処理に細心の注意が必要です。使い捨ての手袋とマスクを着用し、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤を薄めたもの)で汚れた場所を丁寧に消毒し、汚染された衣類は分けて洗濯するなど、二次感染を防ぐための徹底した対策が求められます。