大人のヘルパンギーナを、これほどまでに苦しめる、喉の激痛。その正体は、喉の奥の粘膜、専門的には軟口蓋や口蓋弓と呼ばれる、のどちんこの周辺に、多発する「小水疱」と、それが破れた後にできる「アフタ性潰瘍」にあります。ヘルパンギーナウイルスに感染すると、まず、喉の奥の粘膜に、充血した赤い小さな斑点が多数出現します。そして、その中心部が、ぷくっと盛り上がり、白っぽい水ぶくれとなります。この水疱の壁は、非常に薄くてもろいため、食事や飲み物、あるいは唾液が触れる、ごくわずかな刺激で、すぐに破れてしまいます。水疱が破れた後の粘膜は、表面の上皮が剥がれ落ち、下の組織がむき出しになった、いわゆる「びらん」や「潰瘍」の状態になります。これが、白く見える、浅い口内炎の正体です。この痛々しい潰瘍が、喉の奥の狭い範囲に、多い時には十数個も同時に、密集してできるため、何もしなくてもジンジンと痛む「自発痛」と、何かを飲み込もうとした時に、粘膜がこすれて生じる、鋭く突き刺すような「嚥下痛」が、常に患者を苦しめることになるのです。では、なぜ、大人が感染すると、子どもよりも症状が重く、痛みが強くなるのでしょうか。その明確な理由は、完全には解明されていませんが、いくつかの説が考えられています。最も有力なのが、「免疫反応の強さの違い」です。子どもは、免疫システムがまだ発達途上であるため、ウイルスに対して、比較的穏やかに反応します。しかし、免疫システムが完成している大人は、初めて遭遇するウイルスに対して、サイトカインなどを過剰に放出する、より強力で、激しい免疫反応を起こすことがあります。この、強すぎる免疫反応が、結果的に、より強い炎症と、激しい痛み、そして高熱といった、重い全身症状を引き起こすのではないか、と考えられているのです。つまり、ウイルスを排除しようとする、体の正当な防御反応が、皮肉にも、自分自身を、より深く苦しめる結果に繋がっている、と言えるのかもしれません。