ヘルパンギーナは、「子どもの夏風邪」の代表格として知られ、主に乳幼児の間で流行します。しかし、「子どもの病気」と侮ってはいけません。免疫を持っていない大人が、子どもから感染すると、その症状は、子どもとは比較にならないほど重く、壮絶なものになることが少なくないのです。大人がヘルパンギーナに感染した場合、まず、何の前触れもなく、突然39度から40度を超えるような「高熱」に襲われます。同時に、インフルエンザと見紛うほどの、激しい悪寒、頭痛、そして体中の関節や筋肉がきしむような、強い全身倦怠感にさいなまれます。立っているのもやっと、という状態が数日間続くことも珍しくありません。そして、何よりも大人を苦しめるのが、喉の「激痛」です。喉の奥、のどちんこの周辺に、多数の白い口内炎(潰瘍)ができ、これが、まるでカミソリの刃やガラスの破片が突き刺さっているかのように、常に激しく痛みます。唾液を飲み込むことすら激痛で、食事や水分を摂ることは極めて困難となり、脱水症状に陥るリスクも高まります。この強烈な喉の痛みと高熱、そして全身症状の組み合わせが、大人のヘルパンギーナの大きな特徴です。原因は、コクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルスであるため、抗生物質は効かず、治療は、つらい症状を和らげる対症療法が中心となります。仕事や家事は、到底できる状態ではなく、数日間から1週間程度の、完全な休養を余儀なくされることがほとんどです。子どもがヘルパンギーナにかかった際は、「ただの夏風邪」と軽視せず、自分自身が感染しないよう、徹底した感染対策を講じることが、この壮絶な体験を避けるための、唯一にして最大の方法なのです。